2017年VD小話。

カルナ
チャールズ・バベッジ
エドモン・ダンテス (リクエスト品)

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 カルナ

夢主:マスター



「私からチョコが欲しい人は来てください!!!」

そう叫んで召喚場に入ったのを、止めるものは誰もいなかった。

私だって女子だ。誰かにチョコを欲しいと乞われたら正直嬉しい。でもいま私が所属するカルデアには男性職員はいるけれど、基本的に英霊の方は女性しかいない。何でかは分からない。誰も男性が来ないのだ。比較的魔力消費量が少ないとされる召喚場でさえも誰も来てくれない。もはや事故だ。

……いや、女性が悪いわけではない。それだけは確かだ。マスターと甘い声でチョコを渡されるのはハッッッッッキリ言ってすごく良い。嬉しい。最高。男だったら多量出血で死んでたなとさえ思う。

でも、私だって女子なのだ!チョコを渡されるのは嬉しいけれどチョコを渡したい!女の子たちにはもちろんお返しをあげたけど、それはもういわゆる友チョコだ。一部の人はどうもガチ本命のような気配を感じたけれど目をそらしておくことにする。
もちろん男性職員に渡しはしたけれど、あくまでいつもありがとうこれからもよろしくという挨拶みたいなもので。そんな中で、そう叫んで誰かが来てくれたら、私はその英霊と一緒にこのめちゃくちゃ辛そうな旅を走って行けると、そう。思って。

「────!」

ぶわりと蒼暗い空間の歯車が回り始め、急激に膨大な魔力が根こそぎ持って行かれるのがわかる。うそ、ちょっと、まって。待って待って痛い!体の中にある『何か』が引きはがされるような感覚に目をつぶって耐える。すると。

光が収束し、弾けた瞬間、痛みは引き私の眼の前には一人の男性が、いた。白にも黄金にも見える髪を靡かせて、太陽にも見える輝きを持った槍を手に携えている。

「サーヴァント、ランサー」

現れたその人の声は、とても真っ直ぐな瞳に良く似合う、澄んだ声だと思った。

「真名、カルナという。よろしく頼む」

カルナ。どこの英霊だろう。恥ずかしながら私は浅学で、あまり世界のことを良く知らない。こんなことならばもうすこし真面目に世界史を勉強していれば良かったと思ってももう後の祭りで仕方のないことだ。うん。これから勉強すればいい。

「初めまして、カルナさん。私はと申します」

だから、手始めに貴方のことを知ろう。もちろんお茶請けはチョコで。




「なーんてことも、ありましたよね」

昔のVDのことを思い出して、今年もまた私はカルナさんとチョコを挟んで席に座っていた。あれからぼちぼち男性も来るようになって、男女比率はとんとんになりつつある。いや、まだ女性の方が多いかな?何はともあれ、契機になってくれたカルナさんには感謝してもし足りない。

「あぁ、そうだったな」

そうして、あれから随分とやさしく笑うようになったカルナさんは、最近は特にとてつもなく心臓に悪い微笑みを浮かべる。顔が整ってる人の笑顔って凶器だ。

「いろいろ調べて、あんな叫びで来てくれたのに『施しの英雄』って言われるって知ってちょっと笑っちゃいましたよ」

施しの英雄・カルナ。それは誰かに何かを乞われたり頼まれたり願われた時、それに間断の迷いもなく頷く彼だからこそ授けられた称号だ。そんな彼が、偶然とはいえあれで来てくれたのはどうもなんとなく気恥ずかしい。

「あぁ、あれは強く呼応したからな」
「え?」
「おまえの願いに、俺の心が」

そんな言葉が似合うようなものではなく、だいぶんと俗っぽい願いだったと記憶しているのだけれど、いやしかしそんなことを口に出してしまえば、私の心の底のどこかにあった無意識の何かの欠片を見つけ出して引っこ抜かれかねないと、口を閉ざすしかなかった。
あぁ、本当、心臓に悪い。

 チャールズ・バベッジ

夢主:一人整備班



「バベッジさん!」

カルデアを甘い香りと喧騒が包んだ日の午後。整備班の少女が赤いツナギを着て何かを持って走って来た。アイカメラを引き絞り注視すると銅褐色のそれは何か液体を湛えて両の手の中に。

「あの、チョコレート、食べられるって、聞いて」

そう息を切らせる彼女がもつ茶色い液体は、なるほど、チョコレートであると推察、判断。

「マスターから聞いたんです。ただ魔力だから摂取出来たらしいとも聞いたので、チョコレートを溶かすのはマスターの手を借りました」

私は魔術師ではないので、と笑う少女の表情は、一点も曇っておらずただただ眩しい。太陽光発電とはまた違ったものではあろうが、しかし人間の感情と言うのも確かな他者の動力源となることは自明の理である。

「でもバベッジさんが持ってもちょっとやそっとじゃ壊れないこのカップは、私の自信作です! あの、受け取って、貰えますか?」

ここまで走ってきたというのに、じわりと心に染みが出来たのか心配そうに見上げてくる少女を、我が鋼鉄の身体は拒みはしない。

「勿論だとも」

ぷしゅう、と蒸気を吐きだし、腰を据える。すると近くにあった整備用の脚立を我が前に持ってきて、昇り、座る。

「如何したか、整備士」
「……どうやって摂取するのか、気になってしまって」

それは整備する者の性か、或いは少女の心か。どちらにしろ、自分が作ったものがどうなるかというのは万物気になるというモノであるか、と納得をして、飲み始める。自身の口に物を持って行く構造になっていない故、いささか近くはないが、しかし出来ないこともない。

体の中に染みわたる魔力は、しかしマスターの物とは僅かながらに異なっている。本日午前、たしかにチョコレートとなったマスターの魔力を好みに感じたのだからまず間違いはない。ならばこのとろやかなあまみはこの少女の物。

「……あれ? 中身減ってません?」
「肯定。魔力を摂取するとともに、残量も消えていく」
「ワープみたいなものじゃないですかそれ!?」
「蒸気機関と魔力の合わせ技である」
「えぇー、そうかぁ、なるほど……」

何か思いつきそうなのか、ぼそぼそと呟き始めた少女を眺めながら飲むチョコレートは、大層甘く、美味だった。

 エドモン・ダンテス

お題:チョコをつまむダンテス
夢主:マスター



「たぶん、これぐらいでいいかな」

大量のバットを使って冷やした生チョコを冷蔵庫から取り出し、一人ごちる。なんせカルデアにマスターは一人だと言うのに、サーヴァントの数はとてもつもなく多い。しかし縁あって来てくれたのだし全員に上げたいのはやまやまなのだけれど、きっちり手の込んだものを作るというのは、むずかしいというのが正直なところだった。

だからこうして大量生産が出来る生チョコに決めた。この生チョコは本当に便利というか、見た目がそれなりなのに凄く簡単にできるし材料や入れ物の用意も少なくていいから楽だ。

バットから出したこれを切り分けて、ココアパウダーをかける。あとは数個ずつ小さな小皿へ。さすがに全員分のお皿はないから、これ以上は返って来た食器を洗うことにしよう。明日の食堂に置いておけば、みんな持って行ってくれる……といいなぁ。ちょっと自信なくなってきた。まぁ要らない人は要らないでいいのだけど。

「あ」

とそんなことを考えていると、後ろから腕が伸びてきて、ひとつチョコをつまんでいった。見慣れた形のカフスが嵌る袖から伸びる白い手が、そっと。

「えどもん」

それだけで誰かと問わずとも顔を見ずともわかるとも!というか一応立ち入り禁止の貼り紙してたのに!

「それ明日のチョコなんだけど」

近くに置いていた包丁が落ちないようにしっかり握って、半身だけ振り返って抗議する。だというのにどこ吹く風で、落ちつき整った顔で指先のココアパウダーを舐めているのだからにくい。

「多少は余分があるけどさぁ」

調理台に向き直りながら小言を続ける。一応カルデアのスタッフさんたちにも用意したから、一体どれだけのチョコレートを刻んだかいまいち覚えてない。この世の中にフードプロセッサーと言う名の文明の利器があったことを心から感謝した。というかなかったらこんなに作ろうとは思わなかったけど!

だからその労力を少しは労わって欲しいと思うのもむべなるかな。

「マスター」

呼ばれまだ何かあるのかと振り向いた瞬間、ふにゅり、唇につめたい感触。

「よく出来ているからおまえも食べるといい」

ほんの少しだけ笑んだ表情は、もうびっくりするぐらいこちらの気を削ぐもので、諦めて口を開けばぽいとチョコレートが入ってくる。

「手間減らそうと思ってこれにしてるのに、チョコ少なくなる」
「そうか。味見は大事だぞ」

おっと、聴いてないなこの男は。

「ではな」

そう言って優雅に手を拭いたエドモンは、これまた優雅に厨房を去って行った。……何しに来たんだろう?




「起きろ」

身体を揺さぶられた覚醒後の第一声、そんな声が聞こえてきて今ここが何処だが一瞬不明になる。んんっ、と驚いて上体を起こすと、相変わらずの涼しい顔でエドモンが私を見下ろしていた。

「えっ、あれっ?」

すると僅かに薫る珈琲の香り。私の部屋ではとんと縁のない香りだ。

「目覚めの一杯を淹れている。さっさと顔を洗ってくるといい」

寝起きの顔なのだから酷いことは知っているのだけれど、言外に指摘されてどうも恥ずかしくなり着替えを掴んで足早に洗面所へ向かう。ばしゃりと顔を洗い、歯を磨き、服装を整えて出て来てみると丁度良かったらしく近付けば椅子を引かれて座らされた。

綺麗なカップに入った、深い色の液体。

「昨日食べたあれに合わせた」

対面に座るエドモンの手からは、小皿に乗った見覚えのあるチョコレート。……あぁ、だから、あんな風につまんで。

「……わかりやすいのかわかりにくいのか」
「どうした?」
「ううん、なんでもない」

まだ熱々だろうそれに口を付けて、不器用な優しさに私はカップの陰で一人はにかんだ。