2018年小話。
#リプライできたセリフで小話を書く

ヘシアン(上の人)/FGO

ランカ・リー/MACROSS Frontier

葉隠透/MHA

人物名クリックで飛べます。

名前変換は下の名前のみ使用。
ヘシアンさんとランカちゃんが洋名、葉隠ちゃんが和名だといいかなって感じです。適当にどうぞ。

 ヘシアン

夢主:人理継続保障機関カルデア職員(女性)
台詞:「こんなの、なんでもないことだったのに」



書庫備え付けの梯子階段に上り座って、本を物色していた時のこと。そこでは私は、かの人の『断面』を見てしまったのだ。




ざっくばらんに言うと





こと、カルデア内でも特に珍しい形の顕現となったその人は普段一緒にいるあの蒼い狼の方の姿は見えず、一人で私を(おそらく)見上げていた。首の断面は靄がかかり、縦襟の中でゆらゆらと。

「どうか、されましたか」

ここにはマスターである彼も寄りつかなければ、他の職員を見かけることだってあまりない。書庫の中でも奥の奥の方にある、ノンジャンルの本棚なのだ。

魔術師にはあまり関係のない、本たち。つまるところ遺品。あの人為的な爆発によって死んだカルデアの研究者たちが自室に持ち込み残っていたもの。何かの時には役に立つと残されたもの。まぁ、燃すのもどうするにも燃料などが必要になるのだから残しておこう、という判断なのだけれど。

そこまで考えを巡らせているところで、かの人の腕が上がる。それは脚立に座り込んでいる私と同じ高さにある棚。断面が見えるほどの位置なのだから、相手が届かないと言うのも理解できる話なわけで。

「こちら、ですか?」

棚から抜き出して差し出した本は、動物図鑑と各地の伝承を集めた本。決して『シートン動物記』とかではないけれど、彼がどうしてそれを欲したのか、何となく理解する。

────あの虚構の新宿で、彼はこの目の前にいる人と、かの狼王と対峙した。この人は亡霊と伝説が合わさった、おぼろげな存在。そんな人が、この二冊を欲すると言うのは、そういうことなのだろう。

本が手渡ったところで、彼は二冊を胸に抱き丁寧にお辞儀をしてくれる。丁寧な人。誠実な人。それでも、人間ではなく、概念でしかない存在。それは一体どういうモノなんだろう。

「あの」

だから、気になった。

声をかけると、出口へ向かっていたその人が顔面なく振り返る。動きに合わせて、少しだけ襟から靄が零れる。それにたまらなく、心が跳ねた。

脚立から急いで降りて、前に行く。見上げたところで顔はなく、そもそも少し離れないと胸元のスカーフを見ることさえ首が痛くなってしまいそう。それでも、空間を真っ直ぐと見た。

『私の専攻、えぇと、専門は各地の民間伝承の精査と保存なんですが、よろしければお話させてくださいませんか』

手を差し出し、敢えて独逸語でそう言ってみると、ほんの少し挙動が止まった相手はしかし、私の手を握ってくれた。分厚い、手だった。




それから、狼王である彼がお昼寝をするほんの少しの時間、私たちは談話室で会話をするようになった。私は私用のPCを持ち出して、彼は筆談で。そこへたまに、ゆるやかな寒気が通ることもあった。どうやら彼と混ざり合っているスリーピー・ホロウがからかいに来ているらしいとは、ヘシアン談である。

ヘシアン。米国の独立戦争で英国軍として参戦した、独逸人傭兵の総称。彼自身は概念だから、己の名前はないと、そう前に紙へ記していた。だからヘシアンと呼んでくれて構わないとも。

スリーピー・ホロウはとある小説家が書いた短編では独逸人の傭兵が元となっているとされていて、それが呼び水となって融合したのだろうと言うのは想像に難くない話だ。実際に同一の存在であったのかどうか、そこまでは遡れていない。それがわかれば、彼らを補強し存在強度を上げることも出来るのではないかと考えているけれど、今はまだそこに至っていない。

と、そういったことを、話す。米国のお伽噺から、英国のフェアリーテイル、中東のアラビアンナイト、日本の妖怪絵巻の話まで。時折、ナーサリー・ライムやジャック・ザ・リッパー、ジャンヌ・ダルク・オルタ・リリィなどの少女たちも集まって、私の話を聴いたり、あるいは語り部のキャスターが物語として語ってくれることもあった。

そうした時間を経るなかで、ヘシアンが手紙を書いてくれた。
可能であれば部屋で読んでくれとメモ書きで補足があったので、頷いて仕事が終わって開いた時、ふわり、彼の首の断面にある靄と同じものが、空気中に溶けたような気がした。

記された書き出しは。

『親愛なる友、ルート

当たり前かもしれないけれど、名前が書かれていた。それだけ言うと、今までの人生で何回もあったことだ。書類で、手紙で、何十回と何百回とあったのに。

────こんなの、なんでもないことだったのに。

民間伝承を追いかけていた人間が、まさか本物の伝承に心を寄せてしまうだ何て、そんなの、それこそ、民話みたいじゃないか、なんて。

そんな風に笑い飛ばすことすら、私にはもう出来なかった。




恋を、してしまったのだ。


 ランカ・リー

夢主:共演者(女性)
台詞:「それってどういう意味?」



「それって、どういう意味?」

平素強い意志を宿す少女の赤い瞳が、言葉と共に頼りなく揺れる。問いかけられた白銀の相手は微かな笑みで手を差し出し、嫋やかな手の、指先に唇を落とした。それは言外であろうとも確かな、別離の挨拶。

「なんで、そんなのって、ないよ……」

震える声は届けども、相手は悔恨の表情を少女には決して見せず、自身の後ろに待機していた機体のタラップへ。

行かなければならなかった。生涯を賭すと誓った目標のために。それが果たせるのならば、大切な人の手を振り払うことすら厭わない。しかしそれが、手段と目標が入れ替わっているとも、気付かずに。




「────カット!」

と、監督の声が響いたところで、私は詰めてしまっていた息を吐いた。い、いけないいけない。喉がきゅっとなるけど、息を詰めるって意味じゃないから、気をつけないと。

「リハはこれでオーケィだ。本番もよろしく頼むぜ」
「はい、がんばります!」
「任せてください」

監督の言葉に返しながら直ぐにセットから降りて、リハーサルを撮影したラフを見に行く。……私、こんな顔、してたんだ。何だか不思議。

「いやー、緊張するね」

画面の中に釘付けになっていると、私とおんなじように見に来ていた、今回の映画で私と対の役を務めているイヴェスアルさんがそう呟いた。

「き、緊張してるんですか? イヴェスアルさんがリードして下さってるから、わたし、なんとか出来てるんですけどっ」

そう、さっきの私の表情だって、そこまでイヴェスアルさんが魅せてくれたから引き出されたもの。もちろん本番の時にも出せなきゃいけないのは分かってるけど、そこまでの感情を持って行きやすくさせてくれてるのは誰かって言ったらもう、明らかなわけで。

「まぁ、舞台にいる年月はそれなりだからね。でも、私だってランカさんに助けられてるし。お互い様お互い様」

そう、ふにゃりと可愛らしく笑うイヴェスアルさんは、身長はお兄ちゃんたちより少し低いかなってぐらいだと思うけど、本当に話しやすくて楽しい。

今回の役にするりと入り込めたのも、その前段階で少し勉強会みたいな、解釈のお話会に誘ってくれたのが大きいと思う。うん。

「それにしても、こうして話せる機会があって良かった」
「え?」

妙な言い方だと思って首を傾げると、イヴェスアルさんはすこし笑いながら、スタッフさんが用意してくれていた飲み物の一つを私に渡してくれた。紙パックのリンゴジュース。お礼を言ったところで、口が開かれる。

「前々からね、話して見たかったんだけど、ランカさんと私って活動場所結構違うから全然接点作れなくて」

だからこの話来たときかなりすごい嬉しかったんだよね、なんて。

「えっ、あの、それって、」

どういう意味ですか、と続けようとしたところで、監督が私たちの名前を呼ぶものだから、はい!、と会話は中断せざるを得なくて。でも何だかすこし気になっちゃって。

セットへ一緒にと促してきたイヴェスアルさんを横目で見ると、耳の付け根がほんの少し赤くなってて、あ、何だかかわいい。

それでも到着した時、もう赤みは消えていて、『あの人』の目になっていた。イヴェスアルさんじゃない、別の人。すごいなぁ、って思いながらも私も『彼女』へシフトする。私じゃない、だけど私と重なる別の人。

私は、『彼女』として『あの人』へ心を寄せる。
その感情は『彼女』だけのもの。
誰にも渡しちゃいけないし、私のものじゃない。

そう理解したうえで、私は私として、今まで入ったことのない世界の友だちとして、貴方を知りたいって思っても、いいですか。




花は未だ開かず、
明けを待つ


 葉隠透

夢主:遠距離恋愛相手(男性)
台詞:「触れられるくらい近くにいられるっていいなぁって、思っただけだよ」



夜、明日はオフだからすこし爪の手入れをして、新しいネイルを塗ってみたりして。見えないからちょっと大変だけど、綺麗に出来たら凄く嬉しくなる。女の子ってそう言うモノだと思う。

ドラマ見てたらすっかり乾いたみたいで、よしよしと撫でてたら、携帯電話に着信コール。何か急ぎの仕事でも入ったかな、と除光液を思い浮かべながら画面を見ると。

「もしもしっ」
『もしもし、いま大丈夫かな』

急いでコールに応えたら、私の大好きな人の声が耳元でした。

「うん、大丈夫だよ。というか、どうしたの」
『いや、共有してるカレンダーで明日休みってあったから、電話してもいいかなって』

そんな風に控えめに笑う君はいつも通りで、それが凄く嬉しかった。何でもない日に、何でもなく笑えるって実はとんでもないことなんだと思う。こういう仕事をしてるせいかもしれないけど、たまにふと、強く感じたりする。

「うん、明日は家でごろごろする予定。撮り溜めしてた番組とか見るんだー」

どうやら帰り道なのか、電話の向こうから車の音。空気が繋がってる。うん、やっぱり電話っていいな。どれだけ離れてても、何かが共有できるもん。

「いま、インドネシアだっけ」
『うん、その辺ぼちぼち回ってる』

は海上保安庁に所属してて、ずば抜けてるって理由で技術指南者として色んな国に行ったりしてる。インドネシアは、時差二時間。電話が出来るぐらいだからまだ余裕がある。

「そっか」

お互い忙しい身の上だってわかってて、でも、付き合いを続けようって話になった。一度は別れる話も出たけれど、が「俺は我儘だからこのままでいたい」って言って、私もそう思えたから未だ続いてる。

『あぁ、そうそう。最近新しい人が入って来てさ、一緒に住んでる奥さんの惚気がすごいんだ。まぁ嬉しそうにしてるの見ると嬉しくなっちまうんだけどさ』

"一緒に住んでる"。その響きが、何だかすこし羨ましくって。

「……いいなぁ」

思わず、呟きが。

『え?』
「あ、えっと……」

言ってから気がついた自分のぼやきは明らかな弱音で、でも、になら言ってもいいかなって思ったりもして。ヒーローは、弱音を吐かない。吐いたらいけない。でも、今ここにいるのは一人だけで、マイクもつけてないし、服だって部屋着を着てる。仕事中でも何でもない、ただの葉隠透。
────だったら、いいかな。

そんなことを考えてる間、は、黙って待っててくれた。

「触れられるくらい近くにいられるのっていいなぁって、思っただけだよ」
『……そうだな』

それは、実感が籠ってて、あぁ、私とおんなじだったのかなって、ほっとする。

『あ、透。月が綺麗だぜ』

やっぱりまだ外に居たみたいで、そんな言葉が飛んできた。

「月って一つだから、おんなじの見てるんだよねえ」

笑いながらベランダに繋がる窓を開けて、外に出てみると、確かにきれいな三日月ぽっかりと空に浮いていた。うっかりすると夜空の裂け目みたいなそれは、雲を纏って少し幻想的な姿で佇んでいる。

「……あれ?」

ベランダから見える歩道で、何か四角い物が光ってる。たぶん、携帯端末の画面の灯りで……。

!?」

そこにいるのはさっきインドネシアにいるって言ったばかりの、私の大好きな人。

『いやー、実は新人さんに当てられちゃってさ、明後日の朝には帰らないといけないんだけど、顔が一目見たくって』

なんて、私が透明人間だってわかってるのに、そんなことを言う。

「……泊まってく?」
『透の予定が大丈夫なら、喜んで』




私は、生まれた時からずっと透明で、だから、触れてもらうっていうのは特別なこと。誰かに触れてもらって、形作られる自分がいる。

それをしてくれるずっと近いところにいるのが君だって言うのが、私は本当にしあわせなんだよ。だいすき。




そうしてつよくつよく
抱き締めて
思いっきりね!