2018年小話。
#てきとうなお題とキャラ指定くれたらその一場面を140文字でついゆめ書きます

シークさん/OoT版

天光/Fate

人物名クリックで飛べます。

140文字です。
ゆめではない気がするけれど気にしないでほしい。

 シークさん

お題:初めての馬乗り



初めて出会ったときのこと、あの瞳の透き通った色を覚えている。

『馬は精神を覗いてくる。』
王国には古くからそういう言い回しがある。これは比喩でも何でも無く、ハイラルの歴史は馬と共にあり、それは主従ではなく、対等。馬は賢く、また魔力を見ると言われている。魔力は多かれ少なかれ意識的な使用可能不可能はあれど王国の民なら身体に巡っているものであり、その乱れは意識の乱れとされている。馬はそれを感知するのだ。だから友とした人間の体調を慮り、その思考を時に諌め、しかしそれでもそばにいて殉職することも、ある。
そういった、人間とそうではない存在の交流が深い土地の中で、ボクは人間から小鳥に至るまで認識されないよう生きていた。いや、生きていなかった。生者ではなかった。世界のおおよそから認識されていないのであればそれは生きているとは言えないだろう。

その中で、"彼女"はボクを認識した。恐らく、人間としての痕跡を極力消してはいたけれど、魔法が使えない・魔力の形を上手く見ることが出来ないボクにとって、『そこに人間がいただけで落ちる痕跡』を完全に消し去ることは果てしなく難しかった。

それを見つけ、無視すること無く辿り、城から少し離れた山間に作っていたボクのねぐらに至った。きっと殺すべきだった。ボクの存在を認識するものは極少数でいい。獣といえども裏切ることはある。そもそも馬の蹄を誤魔化すことは労力が大きい。それでも、殺せなかった。
ボクは不完全だった。

インパに相談してみると、ふっと笑い、友になることを頼んでみたらどうだ、と。
友。友人。それは、どういったものなのか。

諸々のことを終えて山間に帰ると、"彼女"は静かにそこで待っていた。ボクの気配がわかったのか、するりと近寄ってくる。こうして前にすると印象より大きいその身体。それでもあの王のような威圧感はなかった。

「……ボクの生き方は、おそらく平穏にはならない」

姫の見た夢のことを話す。馬鹿正直に、ハイリア語で。

「きっと長くは生きられないだろう。それでも、一緒に来てくれますか」

口から出た言葉は、『来るかい』ではなく『来てくれますか』だった。あぁ、ボクもハイリア人だったんだ。どれだけ人間ではないものを取り繕おうとも、自分が人間であると、古来からハイリア人の友であるとされていた馬から己が生き物であるということを突きつけられた時に、絶望を────しなかった。

言葉を理解しているのか、していないのか、それはボクにはわからない。それでも頷いて、自分の背に乗れとアクションをしてくる。わかったと頷いて、鞍も鐙も付けていないから近くの小さな岩の上から飛び乗った。やろうと思えば地面から乗ることも出来たけれど、あまり衝撃をかけるのはよくないと判断したから。

足の間に体温を挟んで、深呼吸をしてから背筋を伸ばしてみると、そこには別の世界が広がっていた。風の音、視界の中の光、触れる世界の形が一変して、ボクはそこにいた。

あぁそうか。この世界は人間一人では、いや人間が二人いても、触れることすら叶わない。

「────フィアス

首を撫でながらそう呟く。共に生きていこう。




そうして、ボクたちはあの内乱が始まるまでの短い間ではあったけれど共にいた。
戦乱のごたごたで"彼女"は死んでしまったけれど、きっと、その魂はハイラルの土地を風となって巡りまた大地へと還るのだろう。その日が来ることを、ボクは。



 天光

夢主:???
お題:天光で「髪を梳く」



男の手が、女性の髪に触れる。
それはある程度以上の関係でなければ決して許されることのない行為だ。

髪というのが大して大事ではないという女性もいるではあろうかしかし、見も知らない異性に頭部を触れられるというのに嫌悪感を持たない人間はあまりいないだろう。知る人間でさえも頭に触れるというのはとてつもなくタブーに近い。

しかしその男は許される。褐色の肌に真っ白な髪を持つ青年は、女性の柔らかな場所に、それが当たり前のように櫛を持っている。
対する女性は、薄い黄色に花を散らし腰のすこし大きなリボンがキュートなワンピースを着て鏡の前に座っている。今日は友人と出かけるのだそうだ。予め告げていた予定。共に起きた朝、再度触れたその話題に頷いた男──そう、彼女の恋人は「髪を結いましょう」と柔らかな声で提案をした。

それに至り、男は髪の毛に触れ、ゆっくりと、毛先から丁寧に、相手の髪を梳いていく。時より髪を持つ指先がうなじに触れ、くすぐったそうに溢れた声は幸福に彩られていた。

この環境と関係はとても迂遠であり、そして刹那的でもある。
シーソーのように行ったり来たりするわけでもなく、危ういバランスの上で存在している。その中で、時に絶望しても、時に悲嘆にくれようとも、二人でいる世界を大切にしていた。

きっと二人とも分かっている。世界はいつか崩壊し、お互いの手を離さなければならない日が来ること。それは逃れられない運命だということも。きっとその時が来たら後悔をする。たくさんたくさん、いろんなことをしたかったと 嘆くだろう。
でもそれは、神様であったり、英霊であったり、とっくのとうに人間ではなくなった存在だとしても、明らかな人間の証だと『僕』は思う。あぁ、『僕』がどういったものかというのはここでは語らないでおこう。きっといつか、またお目にかかるだろうから。

そんなことを考えていたら、どうやら髪の毛を結び整え終わったらしい。
「可愛らしいですよ」そう囁いて、相手の両肩を軽く叩き、玄関まで送り届ける青年。

扉を開けば、そこには夏の空が広がっている。
サンダルを履いて二、三歩飛び出た彼女は振り向いて、夏らしい装いで、美しくきらめいて笑う。

彼女の名前が────彼の救いとなる概念のように。




とあるロザリオの話